1928日後…

すべては1匹のねずみの感染から始まった……!!

プーさんのハニーハントがつなぐ空想と現実

これはプーさんのハニーハントの屋外にある日時計です。

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ハニーハントに並んだことのある方なら見たことがあると思います。遠いのであまりよく見えませんが、よく見ると亀の彫刻がされているのがわかります。

ところでプーさんやその仲間たちが住む100エーカーの森というのは、イギリスのハートフィールド村にあるアッシュダウンフォレストという実在の森がモデルになっているのですがなぜこの森がモデルになっているのかというと、くまのプーさんの原作者であるA.A.ミルンとその一家はハートフィールド村にコッチフォードファームという別荘を持っていたからです。クリストファーロビンのモデルはミルンの息子ですから、森の中でぬいぐるみと遊ぶ少年の姿というのは実在していたということになります。

では、プーさんのハニーハントの屋外、あのイングリッシュガーデンはコッチフォードファームを模したものなのでしょうか。

もしかしたら、そうかもしれません。なぜならコッチフォードファームにも、ミルンの妻ダフネが彼に贈った日時計があるからです。

ところがその日時計はハニーハントのものとデザインが全く違います。コッチフォードファームにある日時計にはクリストファーロビンやプーさんと仲間たちの彫刻がなされているのです。

ここで私は疑問に思いました。なぜ、ハニーハントにある日時計はそのデザインにしなかったのか?プーさんと関係なさそうな亀のデザインより、同じものを再現したほうがより“プーさんらしい”し、コッチフォードファームに行ったことある人は思わずニヤリとできるようなファンの喜ぶ要素になったに違いありません。なにかしらライセンスの問題なのか?それとも亀の日時計にもなにかしらプーさんと因縁があるのか?または関係者がその亀の日時計に強く思い入れがあって、設置を望んだとか?

真相はわかりません。ですが私は「キャラクターの描かれたものを屋外Qラインに置きたくなかったから」だと思っています。ハニーハントの屋外Qラインには入り口にある看板や、建物(大きな本)以外一切キャラクターが見当たらないからです。

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例えばハチの巣箱や

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ハチの巣の形のレリーフなど、プーさんを思い起こさせるようなデザインは見られますが肝心のキャラクターは不在です。

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これは誰かの家の玄関と窓でしょうか。ですがやはり住民の姿は見られません。

以上の様子から私はこのイングリッシュガーデンはコッチフォードファームそのものではなく、“想像力豊かな子供から見た現実世界”の再現なのではないかなと思いました。押入れの向こうにお化けがいたらとか、公園の林を抜けたら違う世界があるんじゃないかとか、そういう子供の感じるイマジネーション。つまりクリストファーロビンの感じたくまのプーさんと仲間たちの足跡を視覚化したのではないかと思いました。実際にはしゃべったりうごいたりしないぬいぐるみを、その有り余る想像力で本物のお友達にしてしまう。そんなクリストファーロビンの見た世界はこんな風だったのかもしれません。

さて、どんどん列が進んでいくとクリストファーロビンの納屋に入りますが、ここでついにキャラクターの姿が登場します。

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この納屋にはプーさんたちの家に貼ってある表札や、100エーカーの森に立ってる標識が飾ってあります。「POOH’S THOTFUL SPOT」や「RNIG ALSO」などおなじみの表札たちです。そもそもくまのプーさんというのはクリストファーロビンの空想ですから、これらの看板をクリストファーロビンが作ったといって違いないです。ですがどうやら納屋で看板をDIYしたというわけではなさそう。

あまり関係ないですが「TRESPASSERS WILL(侵入者ウィリアム)」 の看板にBという文字が見切れてますが、これはこの看板の全貌が「TRESPASSERS WILL BE PROSECUTED(侵入禁止)」であるところに由来しています。ですがアニメに出てくる看板にはBという文字から、つまりWILL以降は抜け落ちてるんです。なぜここではBという文字まで見えているのか、謎ですね。

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また更に余談なのですがここにある看板は「RING ALSO」。本編に登場するのは「RNIG ALSO」。なぜ正しいつづりになっているのか。こちらもまた謎です。

話を戻しますが、これらの看板が意味するのはつまりいよいよ私たち(クリストファーロビン)は現実と空想の区別がつかなくなってるということではないでしょうか。

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ここの納屋にはクリストファーロビンのものと思しきおもちゃの他に園芸道具がたくさんありますが、これは恐らくダフネのものだと思われます。彼女は庭いじりが趣味で、別荘にいるときも息子の世話を乳母に任せて熱心に庭の手入れをするときがあったそうです。

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さて、記念すべきキャラクター初登場はその納屋の出口にあります。この100エーカーの森の地図はプーさんたちの姿はディズニーによるデザインのものでなく、シェパードさんが描いた原作スタイルのものになっています。このプーさんのハニーハントに於いては実在のものをモデルにして書かれた原作(とその挿絵)は、それをさらにデフォルメしたディズニーのくまのプーさんより現実に近いものとして扱わているように思います。

この納屋にはアニメに登場する風船や看板、原作調のプーのイラスト、そして実在する人物であるダフネのものと思しき道具が置いてあったりと実に混とんとしてシュールな場所です。

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納屋を抜ければいよいよプーさんワールドに突入です。あんなに登場を渋っていたキャラクターたちがわんさか描かれています。シェパードさんの描いたプーさんたちはここからは降り場まで一切登場しません。

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また、乗り場にある100エーカーの森の地図に描いてあるプーさんはこの通りアニメデザインになっています。

これら一連の流れはまるでグラデーションのようではないでしょうか。しゃべるぬいぐるみなんて存在しない現実的世界(イングリッシュガーデン)から、実在の森や人物をモデルにした原作『クマのプーさん』の世界を渡し舟にし、よりデフォルメされたディズニーアニメ『くまのプーさん』の世界へ。そしてみなさんご存じの通りアトラクションラストの本が閉じる演出は物語(空想)の終わりを表現しています。現実世界から空想世界に違和感なく入り込めるようにこのような境目をわからないようにする工夫がなされているんですね。余談ですがアニメのクリストファーロビンはイギリス人ではなくアメリカ人らしいので、イングリッシュガーデンからアトラクションに飛び込むとき私たちは国境も超えてるということになります。

また、さらに言うならば降り場から出口にも現実世界に戻ってくるためのグラデーションが施されています。

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出口のクリストファーロビンの子供部屋にあるこのプーさんのぬいぐるみはディズニーの映画の冒頭に登場したぬいぐるみとよく似ています。ほかの森の仲間たちも映画の冒頭に登場した実写スタイルで置かれています。アトラクション(アニメの世界)と出口(現実世界)をつなぐにぴったりな存在と言えるでしょう。

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実はこの場所にはミルンと同じイギリスの作家、チャールズディケンズの本が置いてあったりします(一番下)。ミルンとディケンズは年代が違うので直接のかかわりはありませんが、幼少期ミルンはディケンズの『オリバーツイスト』を読み、そこに描かれた現実世界の恐ろしさに衝撃を受け、自身の少年時代に終止符を打った(=“子供”からの卒業を決意した)という話があります。ここにあるディケンズの本は『ピクウィック』ですが、もしかしたらアトラクション出口という空想世界との決別をしなければならない場所にディケンズの本を置いた理由にはそのエピソードも関係しているかもしれませんね。

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ちなみにピクウィックの上に重ねられている二冊の本。一番上に見えるのは1950年代に出版された『クマのプーさん』(初版は1926年なのでこれは装丁を一新して再版されたもの。)、その下にあるの『クマのプーさんと僕』。これは1927年に出版されたプーさんの詩集なのですが、同じように1950年代に出版されたものの装丁になっています。つまり置いてあるのはどちらもクリストファーミルンがすっかり大人になったころに出された本なわけですが、なぜここにそれが置いてあるのかはわかりません。もしかしてこの部屋は既に使われてないのでしょうか。

それにしてもこれらミルンの著書の下にディケンズの本が隠されるように置いてあるのは、なんともいろいろ勘ぐってしまいます。

 

最後ですが、どこからが現実でどこからが空想なのかという謎の答えは調べたり観察したりしなくても最初から誰でも見えるところに実はありました。

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このアトラクションの英字表記は「Pooh's Hunny Hunt」。物語を空想として終わらせるために置いてある出口の本の綴りどころか、アトラクション名自体が正式に間違って表記されています。更に公式の説明文によると私たちが乗る蜂蜜の壺は「Hunny pot」で、プーさんが探しているのは「Honey」とのことなのでやはり空想の産物に限り綴りが間違っているようです。

つまりいろいろ考察しましたが最初から最後までずっと、このアトラクション自体がすべてクリストファーロビンの夢の世界だったんですね。

 

今回はここで終わりです。ありがとうございました。

 

参考文献

猪熊葉子クマのプーさんと魔法の森へ』 求龍堂,1993

クリストファー・ミルン(石井桃子訳)『クマのプーさんと魔法の森』岩波書店,1977

『ディズニーファン四月増刊号 プーさんに夢中!』講談社,2001

 

画像出典(最後のスクリーンショット

Pooh's hunny hunt/東京ディズニーリゾート

www.tokyodisneyresort.jp